養育費と住宅ローンをセットにした公正証書の問題点

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Q.養育費と住宅ローンをセットにした公正証書の問題点は?

離婚時に、養育費も住宅ローンも夫に払わせ、自宅を維持したいという妻の相談は多いです。

このような交渉をしたり、調停で合意条項を作成することもありますが、後日、問題になることも少なくありません。

例外的な条項は、問題が発生しやすいのです。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2023.10.10

今回、住宅ローンと養育費が実質的に一体となった公正証書の内容について、養育費減額ができるか争われた事例を紹介します。

東京高等裁判所令和元年8月19日決定です。

養育費

事案の概要

未成年者ら3名の父が申立人。母が相手方。

父母は平成28年に離婚。

離婚時には、離婚給付等契約公正証書が作成されています。

そこでは、父が母に対し、未成年者らの養育費として、一人につき月額5万円を払う旨の記載がありました。

今回の申立では、父がこれの減額を求めたものです。

一人につき月額3万円に変更することを求める申立てをしました。

この公正証書には、養育費の支払に関する条項に加えて、父は、母や未成年者が暮らす住宅の住宅ローン月額10万円を完済まで支払うことを約する条項、父が住宅ローンを支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引く旨の条項がありました。

 

養育費減額請求の理由

父は、以下の理由での減額を求めました。

・本件公正証書により養育費を定めた平成28年に比して、その収入が大きく減少した

・再婚し、再婚相手の子と養子縁組をした

・再婚相手との間に子をもうけた

これらを理由に、公正証書により未成年者らの養育費を合意した背景が著しく変更されたと主張したものです。

 

家庭裁判所では、減額と判断

家庭裁判所は、父の主張を受け入れ、養育費を減額しました。

新たに未成年者らの養育費額を算定するに当たっては、いわゆる標準算定方式に基づいて検討するのが相当であるとしました。

その結果、父が負担すべき養育費は、未成年者1人につき、1か月2万6000円とするのが相当として、本件公正証書第2条1項をそのように変更すべきとしました。

さらに、本件差引条項等については、養育費とは別に、本件住居の住宅ローンのうち10万円を支払うことを合意し、それを受けて、住宅ローンの支払と養育費の支払を精算する方法を定めたものであるが、他方、本件は、養育費の減額を求めることの当否等を判断すべきものにすぎないから、当裁判所が、その精算の在り方について当事者が別途合意した内容に変更を加えることは、相当でないとしました。

母がこれを不服として即時抗告。

母は、本件公正証書における養育費に関する合意内容は単に養育費の額を定めるのにとどまらず、本件住居に係る住宅ローンの支払状況と関連付けられたものであり、相手方が住宅ローン月額10万円を支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引く旨の条項が合意されているところ、本件差引条項を変更することなく、養育費の額のみを変更すると、実質的に受領できる養育費の額は0円となってしまい、不当であると主張しました。

 

高等裁判所の判断は、減額を否定

原審判を取り消し、父の減額の申立てを却下しました。

減額を否定した結論です。

本件公正証書は、母が主張するとおり、単に養育費の額を定めるのにとどまらず、離婚に伴う様々な事項に関する取決めをした複雑なものであると指摘。

確かに、その2条1項において、未成年者らの養育費を月額5万円ずつ(3人分合計で月額15万円)と定めているものの、同条2項において本件差引条項が定められ、父が住宅ローン月額10万円を支払っている場合には、その支払額を養育費から差し引くものとされているのであり、これらの条項は不可分一体のものとなっていると解するのが相当だとしました。

 

実質的な養育費金額を認定

本件公正証書が作成された当時から現在に至るまで、上記住宅ローン月額10万円は、実際に支払われるものと考えられ、現に支払われてきているというべきであるから、本件公正証書による合意の真の意味は、未成年者らの養育監護に使用される実際の養育費としては、上記住宅ローン月額10万円相当額を除いた、月額5万円を母に支払うことを約するものと解するのが相当であるとしました。


そうすると、不可分一体というべき上記各条項につき、住宅ローンの支払に関係する条項については、本来、家事審判事項とはいえず、本件において変更することは許されないというべきであるから、養育費の月額のみを一方的に変更することは不当な結果を導くことになり、相当でないと指摘。

また、上記のとおり、本件公正証書において合意された実際の養育費は、未成年者3名で合計月額5万円であったと解した場合でも、父の主張する事情の変更を前提にして標準的な養育費の算定方式に基づき試算した養育費の額は、未成年者3名で合計月額7万8000円となるのであるから、養育費の減額が認められる余地はないとしました。


これら本件特有の事情を総合考慮すると、本件においては、本件公正証書において定められた養育費の額を変更し、減額するに足りる事情を認めることはできないというべきであるとしたものです。

 

住宅ローンについて協議した方が良いという意見

結論としては、減額を否定していますが、住宅ローン部分についても協議した方が良いのではないかと提案しています。


本件住居につき母及び未成年者らが無償で居住すること及びその最終的な取得者が母となることが本件公正証書において定められている点に鑑みると、本件における問題の解決のためには、母の父を含めた関係当事者において、住宅ローンの支払や本件差引条項等を含めた本件公正証書による合意の見直しを協議することが有益であることは当然であるから、その旨念のため注意喚起する(父において住宅ローンの支払が困難な事態に陥ると、母らにも不都合が生じることが懸念される。)と決定に意見が付されています。

 

 

養育費の減額


養育費は、合意や調停等で、金額を決めた場合でも、それまでの合意額を維持するのが不相当といえる事情の変更があれば、変更されます。

養育費の金額を変更する場合、まず標準算定方式に基づいて計算されることが多いです。

ただし、従前の養育費金額が決められた経緯等も考慮されます。

従前の合意額が相場に上乗せしたような金額である場合、収入が下がったなどの事情により変更するとしても、変更後の養育費も相場より高く算出されることが多いです。

 

参考:養育費の金額は変更できる?

関連動画

 

本件では、公正証書で、住宅ローン分の差引条項があったことが特徴です。

住宅ローン月額10万円の支払がされると、この10万円を養育費から差し引くことができるという条項です。

養育費について、10万未満に減額すると、住宅ローン月額10万円を支払うことで、養育費を全く支払わなくてもよい結果になるというものです。

これはおかしいということで、減額を否定したものです。

とはいえ、住宅ローンの支払問題は残ってしまい、根本的な解決にならないことは高裁も認めているとおりです。

養育費を決める際に、住宅を維持したい配偶者側との間で、特殊な合意をすることがあります。このような、住宅ローンと養育費等をセットにしたような条項もその一例です。

このような合意をした場合には、その後に、本件のような問題を抱えることになってしまうのです。

 

養育費合意の際には、このような点についても意識して進めるようにしましょう。

 

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