年金受給の先送りと婚姻費用の減額。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.年金受給の先送りは婚姻費用でどう扱われる?

年金を受給できる年齢なのに、まだ受け取らないという選択をした夫。これが婚姻費用算定のための収入でどう取り扱われるか争われた事件があります。

東京高等裁判所令和元年12月19日決定です。

この判例をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・定年退職などで大幅に減収、婚姻費用も下げたい
  • ・株式の配当収入って、婚姻費用でどう扱われるか知りたい
  • ・年金を受け取れる年齢なのに受け取らないのは、婚姻費用的にはどうなの?

 

 

事案の概要

夫が妻に対し、平成30年3月12日に成立した当事者間の婚姻費用分担調停で定めた婚姻費用20万円の減額を求めた事案です。

夫が申立人、妻が相手方。

夫は昭和28年生。妻は昭和23年生。

平成16年に婚姻。

平成29年8月21日に夫が自宅を出て、以降、別居状態。

別居

妻は、平成29年9月29日、夫に対し婚姻費用分担調停を申し立て。

平成30年3月12日調停成立。

婚姻費用の分担として、同月から離婚又は別居解消に至るまで、毎月末日限り月額20万円を支払う旨の合意が成立。

 

夫は、平成29年11月7日、離婚を求める夫婦関係調整調停を申し立て。しかし、同調停は、平成30年5月15日に不成立となって終了。


その後、夫は、平成30年6月28日に、婚姻費用の減額を求める調停を申し立て、同月29日に、妻との同居を求める調停を申し立てましたが、平成31年2月12日、いずれの調停も不成立となり、審判手続に移行

 

婚姻費用の前提となった基礎収入

夫は、平成18年に株式会社Eの取締役兼F株式会社の代表取締役社長に就任

平成28年4月に同社の取締役会長に就任。

平成29年に給与収入として1652万円を得ました。

また、平成30年6月に同社と再雇用契約を結び、給与の支給が開始された同年7月から平成31年3月まで月額55万円の給与収入を得ましたが、同月31日に同社を退職。

夫は、所有する株式の配当収入として、平成28年に382万8636円、平成30年に429万8793円を得ていました。

平成30年の株式の配当収入のうち、株式会社Eの株式6万7112株に係る配当収入は401万0867円。夫は、同社の株を平成31年3月20日に1万株、同月22日に1万株を売却。

夫は、年金受給資格はあるものの現在受給しておらず、70歳まで受給するつもりがないと申述。

年金受給

前回の調停時に主張された収入

前件調停時、夫は、自己の収入については、
平成29年の給与収入を1633万0760円、
平成28年の株式の配当収入を382万8643円とし、株式の一部が特有財産であるなどとしてその配当収入の一部を控除して、婚姻費用の算定に当たっての収入は合計1693万2267円であると主張し、

妻の収入については、平成28年の営業等所得額や年金収入額は争わないとした上で、自身が自宅の住宅ローンや管理費等を負担しているとして婚姻費用から合計11万円を控除し、婚姻費用は月額11万円と主張していました。

妻は、平成29年に年金収入63万2845円、平成30年に年金収入63万2632円を得ていました。

前件調停時、妻は、自己の収入については平成28年に営業等所得14万6976円、年金収入63万3242円であり、夫の収入は、平成28年の給与収入を1882万円、株式の配当収入を382万8643円とした上で、住宅ローン等の負担は考慮せず、婚姻費用は33万7869円であると主張していました。

 

夫は、前件調停において定められた婚姻費用20万円のほか、自宅の住宅ローン及び管理費等を負担

平成31年1月から同年4月までは住宅ローンが毎月約21万5000円、管理費等として毎月約2万4000円。

 

 

婚姻費用の減額ができる事情

調停は、当事者双方の話合いの結果、調停委員会の関与の下で成立し、確定した家事審判と同一の効力を有するものであるから、その内容は尊重されなければならず、前件調停成立時に予想し得なかった事情又は前提とされていなかった事情の変更が後に生じ、調停の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合に限り、調停の内容を変更し又は取り消すことができるというべきとされます。


前件調停時には、夫は、少なくとも給与収入1600万円以上を得ていたものであるが、その給与収入は平成30年7月からは再雇用により月額55万円、年額換算して660万円に減額され、平成31年3月に退職して同年4月以降は給与収入を得ていないことが認められ、前件調停時に前提とされていた夫の稼働状況が変化したことに伴いその収入状況も大きく変動したことに照らすと、本件においては、調停成立時に前提としていなかった事情の変更が生じ、調停の内容が実情に適合していないものとして、改めて婚姻費用分担額を定めるのが相当であるとしました。


そして、婚姻費用の減額を求める調停の申立てが平成30年6月28日であること、減額された申立人の給与の支給が同年7月からであることなど前記1の経緯等に照らし、婚姻費用変更の始期は、当事者の公平の観点から平成30年7月からとするのが相当であるとしました。

収入減少

退職は予想できたとの主張は排斥

妻は、前件調停時において、夫が平成29年12月時点で64歳であり、平成31年には定年退職の予定であるから、年収は年々減額されていると主張しており、夫の収入が大幅に減額されることは予想し得た事情であり、そのため、妻は、当時の夫の収入からすれば極めて低額な婚姻費用であったにもかかわらず、前件調停を成立させた旨主張。

しかし、前件調停においては、夫の収入額自体に争いがあり、当事者間で具体的な収入額の合意があったとは認められず、また、夫が主張した夫の収入の減少や退職は抽象的には予想し得るとしても、具体的な減少額や減少時期が確定していたわけでもないから、当時の給与収入から半分以下の減少になることが前提になっていたとはいえないとしました。

婚姻費用について、標準算定方式を基本とすべきとされます。

 

株の配当収入の計算

夫の収入につき、株式の配当収入を給与収入に換算するにあたっては配当収入には職業費が不要であることを考慮する必要があり、標準算定方式において職業費は概ね20%とされていることから、平成30年の株式の配当収入429万8793円については、基礎収入割合38%に20%を加えて基礎収入額を算定し、基礎収入額を基礎収入割合37%で除した673万8648円(≒429万8793円×0.58÷0.37)となると算定。

平成30年の株式の配当収入のうち、株式会社Eの株式6万7112株に係る配当収入は401万0867円であるところ、夫が平成31年3月に株式会社Eの株式2万株を売却したため、同年4月以降の配当収入は281万5591円(≒401万0867円÷6万7112株×4万7112株)と見込まれると認定。

これを給与収入に換算すると、基礎収入割合38%に20%を加えて基礎収入額を算定し、基礎収入額を基礎収入割合38%で除した429万7481円となるとしました。


そうすると、平成30年7月から平成31年3月までの夫の収入は、株式の配当収入を給与換算した673万8648円に年額換算した給与収入660万円を加えた1333万8648円、同年4月以降については、株式の配当、収入を給与換算した429万7481円と算出。

婚姻費用計算

潜在的稼働能力の否定

妻は、夫は経営者として豊富な経験と実績を有しており、年齢にかかわらず、従前と同等の収入を得ることができる職に転職することは容易であるとして潜在的稼働能力がある旨主張

しかし、夫が従前、会社の代表取締役に就任するなどの経歴があったとしても、転職を繰り返してきたわけでもなく、同じ会社に勤め、再雇用を経て退職していることに照らせば、容易に転職でき、従前と同等の高額な収入を得られるとはいえず、また、現在夫に一定程度の配当収入があることに照らせば、稼働しないことが直ちに不当であるともいえないから、妻の主張は採用できないとしました。

 

特有財産の主張を排斥

夫は、株式の配当収入につき、株式の一部は夫の特有財産であり、特有財産からの収入については、婚姻費用算定の基礎にすべきでない旨主張。

しかし、妻は、夫とは婚姻前から内縁関係にあったと主張してその特有財産性を争っているほか、そもそも婚姻費用分担義務は、いわゆる生活保持義務として自己と同程度の生活を保持させるものであることを前提に、当事者双方の収入に基づき婚姻費用を算定しており、仮に株式の一部が夫の特有財産であったとしても、本件において、特有財産からの収入をその他の継続的に発生する収入と別異に取り扱う理由は見当たらないとして排斥。

裁判所の判断

夫は、裁判例を引用して、特有財産からの収入を算定の基礎にするかは特有財産からの収入が同居中に直接生計の資とされていたかで判断されるべきと主張するが、同裁判例は、婚姻から別居に至るまでの間、専ら義務者が勤務先から得る給与所得によって家庭生活を営んでおり、権利者が従前と同等の生活を保持することができれば足りると解するのが相当であるから、婚姻費用の分担額を決定するに際し、考慮すべき収入は主として義務者の給与所得であるとし、特有財産からの収入を考慮しない旨判示しているものと解され、特有財産の収入の取扱いについて一般的に判断しているものではなく、本件とは事案を異にし、例えば事情変更により給与所得が減少あるいは給与所得がなくなるなどして、従前と同等の生活を保持するに足りない場合の特有財産からの収入の取扱いについてまでその射程が及ぶものということはできないとして否定しました。

 

税金等も婚姻費用減額の根拠にはならない

また、夫は、平成30年6月から平成31年3月までの相手方の健康保険料を負担したこと、平成30年度の住民税について、前年度の高額な給与所得を基準として高額な住民税を負担していることを婚姻費用の算定にあたって考慮すべきと主張するが、健康保険料については、当事者間での立替の問題であって、算定にあたって考慮すべきものとはいえず、住民税については、標準算定方式での基礎収入の算定の際公租公課が考慮されており、従前の婚姻費用の算定において既に考慮されているものであるから、本件で考慮すべきものとはいえないとして、こちらも排斥。


妻には63万2632円の年金収入があるところ、これを給与収入に換算するにあたっては職業費が不要であることを考慮する必要があり、標準算定方式において職業費は概ね20%とされていることから、基礎収入割合40%に20%を加えて基礎収入額を算定し、基礎収入額を基礎収入割合42%で除した90万3760円(≒63万2632円×0.6÷0.42)となるとしました。配当と同じ計算です。

 

婚姻費用算定表による計算

家庭裁判所は、当事者双方の給与収入(夫の収入は①平成31年3月までは1334万円程度、②同年4月以降は430万円程度、妻の収入は90万円程度)を、標準算定方式に基づく算定表に当てはめると、①同年3月までは月額16万円から月額18万円の幅の上方付近、②同年4月以降は月額4万円から月額6万円の幅の中から上方付近に位置づけられ、そのほか本件に現れた一切の事情を考慮すると、夫が負担する婚姻費用分担額は、①については月額18万円、②については月額6万円とするのが相当であるとしました。

 

住宅ローン負担と婚姻費用減額

次に、夫は、妻が居住する自宅の住宅ローン及び管理費等を負担していることを考慮すべき旨主張するが、住宅ローンには住居を確保するための費用と資産形成のための支出の両面があり、標準的な住居関係費については、夫の収入からあらかじめ控除され、前記住居関係費を超える部分は資産形成的側面を有するものとして、財産分与等の手続で清算すべきであり、これを婚姻費用分担額の算定にあたって考慮するのは相当ではないとしました。

住宅ローン
もっとも、婚姻費用の算定に当たっては、別居中の権利者世帯と義務者世帯が、統計的数値に照らして標準的な住居関係費をそれぞれ負担していることを前提としており、夫は妻が居住する自宅につき住宅ローン及び管理費等を負担し、妻の住居関係費をも二重に負担し、妻が住居関係費の負担を免れているといえるから、当事者の公平の観点から、前記の婚姻費用分担額から、妻の収入に対応する標準的な住居関係費(約2万8000円)を控除するのが相当であるとしました。

以上によれば、夫は、妻に対して、婚姻費用として、平成30年7月から平成31年3月まで月額15万2000円を、同年4月から離婚又は別居解消に至るまで月額3万2000円を支払うべきであるとしました。

 

高等裁判所の判断

高等裁判所では、家庭裁判所の金額を変更しました。

平成30年7月から平成31年3月まで月額15万2000円を、
平成31年4月から離婚又は別居解消に至るまで月額9万2000円を婚姻費用として認定しました。

前段は同じ金額、後段は、3万2000円から9万2000円へと増額の認定をしています。

婚姻費用の変更自体は認めるものの、金額が違うという認定です。

増額の理由は、年金を受け取れるのに受給していないという点です。

 

事情変更についての高等裁判所の考え方

民法880条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。」と定めているところ、その法意は、前記協議又は審判の合意又は判断の基礎となった事情に、当該協議又は審判の当時予測できない変更があり、法的安定性の観点を踏まえても、これらを維持することが相当でない場合に、家庭裁判所の審判により、その変更又は取消しをすることができるとしたものであると指摘。

したがって、当該協議又は審判の当時、既に判明していた事情や当然に予見し得た事情はもとより、予見し得た事情がその後現実化したにすぎない場合はこれに当たらないというべきであると一般論を展開。

事情変更

夫は、前件調停時、株式会社の取締役会長として年額1652万円の給与収入を得ていたところ、平成30年6月に株式会社の役員から退任して再雇用契約を結び、同年7月から平成31年3月までは月額55万円の給与収入を得ていたが、同月31日に同社を退職し、その後は稼働していないものと認定。

このような夫の稼働状況及び収入の大きな変更によれば、法的安定性の観点を踏まえても、前件調停における婚姻費用の分担額の合意については、これを維持することが相当でなくなったものと認められるから、これを変更することが相当というべきであるとしました。

高裁も標準算定方式による金額算出が妥当としました。

 

資産は婚姻費用算定の根拠にならない

夫の収入については、平成30年7月から平成31年3月までは、年額に換算して660万円の給与収入を得たものと認定。
また、平成30年7月から平成31年3月までは給与収入に換算して年額約674万円の、平成31年4月以降は同じく年額約430万円の、各配当収入を得ているものと認定。

なお、妻は、当審において、夫の保有株式を考慮して婚姻費用の分担額を定めるべきであると主張するが、通常、生活費については、その収入が生活費に不足する場合のほかは、資産、特に固有資産についてこれを取り崩してこれに充てるべきものとは認められないから、仮に妻が主張するように夫が自身の判断で稼働しないという選択をしていたとしても、そのことをもって、夫の固有資産である保有株式を考慮して婚姻費用の分担額を定めるべきであるとは認められないとしました。

 

年金受給資格による収入認定

夫は、年金受給資格を有しているものの、70歳までこれを受給するつもりがないとしています。

夫は、65歳で年金の受給を開始していれば、年額約250万円の年金を受給することができるものと認められることからすると、少なくとも再雇用の期間が満了して夫が無職となった平成31年4月以降は、上記の年金収入を給与収入に換算した約390万円(年金収入については職業費が不要であることを考慮し、基礎収入割合39パーセントに20パーセントを加えて基礎収入を算定し、基礎収入額を基礎収入割合38パーセントで除したもの)について、夫が本来であれば得ることができる収入として、婚姻費用の分担額の算定の基礎とするのが相当であるとしました。


夫は、年金の受給開始時期は任意に選択できるものであり、自身の選択として現時点で年金の受給をしていないのであって、婚姻費用の減額を目的として自身の収入を減らしているわけではないと主張していました。


しかしながら、固有資産である株式自体とは異なり、同居する夫婦の間では、年金収入はその共同生活の糧とするのが通常であることからすると、これを夫の独自の判断で受給しないこととしたからといって、その収入がないものとして婚姻費用の算定をするのは相当とはいえないとして、主張を排斥しました。

潜在的稼働力に似たような理論です。

否定

婚姻費用の最終計算

年金収入を給与収入に換算した約390万円を、婚姻費用の分担額の算定の基礎とすることとするが、このような取扱いをする以上、今後、実際に相手方が年金の受給を開始し、受給開始時期との関係で前記の金額よりも高額な年金を受給することができたとしても、基本的には、当該高額な年金の受給に基づいて婚姻費用の算定をすることはできず、この事実をもって、婚姻費用を変更すべき事情に当たるものと認めることもできないということになるとも言及しました。

平成31年4月以降は配当収入を給与収入に換算した配当収入約430万円と同じく年金収入390万円を合算した820万円程度の、各収入を得ることができるものとして、婚姻費用の分担額の算定を行うのが相当であるとして算出。

これにより算定表では、月額10万円ないし月額12万円と算定されるところ、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、夫が負担する婚姻費用分担額は、月額12万円と定めるのが相当であるとして、この点のみ家裁の判断を変更しました。

 

年金のように夫婦の生活の根拠となる収入を受け取れるのに、受け取っていない、という場合には、このような主張をしてみると良いでしょう。

 

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