両親が資金提供した財産が、離婚時の財産分与対象になるか争われた裁判例。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.親族が資金提供している財産分与の事例は?

夫婦間の財産分与で、何が対象財産なのか争われることは多いです。そのうち、両親などの親族が資金提供している場合、特有財産として財産分与の対象から外されるのか問題になった事例があります。具体的に細かい認定がされている事例です。

東京高等裁判所令和3年12月24日決定です。

この判例をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・離婚の財産分与で争っている
  • ・親など第三者がお金を出した財産が含まれている

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.12.8

財産分与事件の概要

平成4年に婚姻。

平成30年12月12日に協議離婚。

元妻から、元夫に対し、財産分与を求める調停の申立て。その後、審判に移行


離婚後に、元妻から元夫に対して、財産分与請求をした事件です。

夫の両親が会社経営をしており、夫や妻に対する送金や、夫名義の資産が多くあったため、名義だけではなく、実質的に判断するかどうかが各財産で問題になっています。

このように親が作った口座、資金提供した不動産、役員報酬、給与名目で送金された預金口座等がある場合には、参考事例となるでしょう。

 

家庭裁判所の判断

家庭裁判所は、財産分与として、

夫から妻に対して不動産を分与すること、

財産分与を原因とする持分全部移転登記手続をすること、

夫から妻に対して3200万円を支払うことを命ずる旨の審判をしました。夫はこれを不服として即時抗告。

 

家庭裁判所は、一部の夫名義の不動産について分与するほか、3200万円を支払うよう命ずる審判をしました。

夫は、妻名義の預金は、夫の父が管理をしていたものであるから父の財産と主張。

一部の不動産も、父母が購入したもので、夫婦の共有財産ではないなどと主張しました。

 

高等裁判所は、個別の財産分与対象財産について、実質的に判断をしています。

それぞれの財産について、どのような事実をもとに対象財産とするのかしないのか判断されており、親族が絡む財産分与事件では参考になる流れといえるでしょう。

 

 

親の関与が問題点に

夫の父は株式会社の代表取締役、母は有限会社の代表取締役。本件各会社は、いわゆる同族会社であり、父が実質的に経営。

婚姻期間中の夫の収入は月額50万円程度であり、一方で、妻も、婚姻後5年間ほどは父の株式会社の従業員として、また、同社及び有限会社の取締役として少なくとも月額合計12万円ないし16万円程度の収入を得ていました。

このような親からの収入や、資金提供、預金等の管理があったことから、実質的には誰の財産なのかが問題になりました。


財産分与の判断基準

民法768条は、協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができ、当事者間に財産の分与についての協議が調わないとき、または協議をすることができないときは裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる旨を規定しており、裁判所は、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」ものと定めています。

そうすると、裁判所がその判断において考慮すべき事情としては、「当事者双方がその協力によって得た財産の額」及び財産形成における「寄与の程度」が清算的財産分与の額の判断において重要な考慮事情となるほか、それ以外の事情についても、当該事情を考慮することが財産分与における当事者の衡平を図るうえで必要かつ合理的であると認められる場合には、これを前記「一切の事情」として考慮し、裁判所の合理的な裁量に基づいて、「財産分与の額及び方法を定める」ことになると指摘。


財産分与の基準時は、離婚時とすることに争いはありませんでした。

 

 

預金の特有財産性

財産分与基準時に妻名義の預金がありましたが、一部は特有財産であると主張されていました。

夫は、この預金は父母の特有財産であって財産分与の対象ではない旨を主張。

父が妻名義で開設し、役員報酬等の名目で金員を振り込んでいたもので、通帳及び届出印は父が管理しているものであることが認められました。

しかし、妻は、婚姻後、少なくとも5年程度の期間、実際に会社の従業員として稼働し、そのほか本件各会社の取締役として登記がされていたことが認められるから、この口座には相手方に支払われる給与又は取締役報酬が振り込まれていたものというべきであり、たとえこれらの収入の中に相手方の稼働実態がないのに支払われた部分が含まれていたとしても、父が夫及び妻の生活支援として相手方の口座に振り込みを行っていたものと推認されるとしました。

そうであるとすれば、口座に入金されていた同預金は、妻の従業員又は取締役としての地位に基づいて支払われたものであるか、父が生活の支援のために贈与等をしていたものというべきものであるから、通帳及び届出印を父が管理していたものであったとしても、預金自体は、実質的には夫婦の共有財産として財産分与の対象とすべき財産であるというほかはないとしました。
したがって、同預金(1821万6378円)は財産分与の対象となると結論付けています。

 

基準日前の預金出金

夫は、夫婦共有財産の口座から、基準時前の平成27年12月に出金された約70万円についても財産分与の対象に含まれるべきであると主張。

しかし、裁判所は、出金から約3年後の基準時に妻が出金に係る約70万円の金員を保有していたことを認めるべき資料はないとして、預金残高のまま財産分与対象財産を認定しています。

 

不動産と特有財産

不動産について、基準時において、妻と夫が持分各2分の1の割合で共有する旨の登記がされていたものがありました。

夫は、その取得代金は父母が全額を負担したものであるから、父母の特有財産である旨を主張しました。

裁判所は、証拠から、不動産の売買代金の額は2680万円であり、このうちの一部600万円を父が、1000万円を母が負担したと認定しました。

そうすると、同不動産のうち、父母が代金を負担した部分に対応する不動産持分については夫婦の協力によって得られた財産とはいえないとしました。

もっとも、同不動産については、基準時後に妻名義の持分2分の1が母名義に移転されている一方で、夫名義の持分2分の1については本件財産分与に関する紛争が生じている状況においても夫名義のままであることが認められるから、上記妻名義の持分の移転をもって父母との間で、上記特有財産部分の清算がされたものと認めるのが相当としました。

そうすると、夫名義の残りの2分の1の持分については、これを夫婦共有財産と認めて財産分与の対象とするのが相当であり、本件資料によれば、同不動産の評価額は3010万円と認められるから、夫の持分(2分の1)の評価額は1505万円と認定しました。

 

オーバーローン不動産の財産分与

妻が居住する不動産は、持分各2分の1の割合で共有する旨の登記がされており、基準時後も妻が居住用として使用。

同不動産の評価額は3515万円で、同不動産に設定されている夫を債務者とする抵当権の被担保債務の額は、抵当権設定時が3830万円、基準時後の令和元年12月31日の時点が約3626万円。

評価額を上回るオーバーローンの状態にあり、かつ、夫が基準時後も上記ローンの返済を行ってきたものであると認められ、妻において、夫から、妻が居住を継続する前提で、上記ローン残額、管理費用や固定資産税などの経費の半分を負担するように求められていたのに、これに応じる姿勢を示すこともなかったことを踏まえれば、同不動産について、夫において上記ローン残額の全額の支払義務を単独で負担することを前提に、同不動産の全部を取得させるのが相当であるから、同不動産の財産分与の方法としては、同不動産の相手方持分2分の1を夫に分与するのが相当であるとしました。

 

親の資金で買った不動産

一部の不動産は、夫と母が持分各2分の1の割合で共有する旨の登記がされていました。

夫は、この不動産は母が購入したもので、購入代金のうち900万円は父が支出したものであると主張。

証拠資料によれば、父名義の預金口座から登記の直前に900万円が出金されていることが認められると指摘。そして、同金員が売買の代金に充てられたことを直接に証する資料はないが、同不動産の夫の持分2分の1は基準時後の平成31年売買を原因として母に移転登記がされており、その対価は母から夫に支払われていないことが認められ、以上のような経緯及び手続の全趣旨からすれば、夫の上記主張を採用することができるとしました。

この不動産持分は、夫婦がその協力によって得た財産とは認められず、母の特有財産であると認めるのが相当であるから、財産分与対象財産であるとは認められないと結論付けています。

 

同様に、一部の土地の購入に際して代金を支払った記憶はないから、母が代金を支払ったものだと主張する土地がありました。

裁判所は、夫名義で、代金1000万円で買い受けられたものと認められるが、夫が同代金を負担したことを基礎づける資料はなく、母が購入代金の全部を負担したものと推測するのが合理的としました。

このことは、同土地を敷地として、基準時前である平成30年2月27日、株式会社が建物を新築し、同建物につき所有権保存登記をしていることにも沿うもので、これらの事情を併せ考慮すれば、同土地は、夫婦が協力して得た財産とは認められず、母の特有財産と認めるのが相当と結論付けました。

 

一部購入資金が提供された土地

土地の取得代金のうち500万円を父が負担したものであると主張する土地がありました。

夫は同土地を建物と共に競売手続により取得。

競売による売却代金811万円のうち500万円は父が負担したこと、同土地上に母が建物を新築して現在まで所有していることが認められました。

同土地の評価額は1320万円。この同評価額は母の建物が存在しないことを前提とする更地として評価がされたものであることや父が上記売却代金の6割以上を負担していたことなどの本件に現れた一切の事情を考慮すると、同土地のうち、父が代金を負担した部分を控除した持分部分のみが財産分与の対象となる財産であると認められ、同土地部分の評価額は400万円と認めるのが相当としました。

 

購入資金を出した証拠

他にも親が資金提供したという不動産がありました。しかし、その証拠が不十分なものも。これも裁判所で認定されています。

たとえば、土地の購入代金1500万円の全額を父が支出したと主張する不動産がありました。

土地の売買代金は1500万円と認められ、当初の売買契約書では買主は父とされ、手付金500万円の領収書も父宛てとなっていました。その後、父が売買契約書の買主を夫に手書きで変更したと認められました。

預金通帳等の直接の資料はないものの、売買代金は父が負担したものであるとの主張は採用できるとしました。

この土地も、夫婦が協力して得た財産であるとは認められないから、財産分与対象財産であるとは認められないと結論付けています。


 

親が開設した預金口座の財産分与

一部の預金口座は、父が開設し、主として母が管理していたものであって、本件口座の預金は財産分与の対象財産ではない旨を主張していました。

しかし、本件口座には、株式会社からの夫に対する給与、退職金及び役員報酬の名目で金員が振り込まれており、一方で、保険料、税金、電気代やカード支払等の家計費の支払口座として使用されていたことが認められると指摘。

仮に、その中に、夫において従業員や役員として稼働した実態がないのに支払われた部分があったとしても、父母が、夫婦の生活費を支援する目的で給与ないし役員報酬の名目で送金していたものであると認めざるを得ないとしています。

そうである以上、本件口座の預金(1024万0302円)は、夫婦共有財産として財産分与対象財産であると認めるのが相当と結論付けています。

 

直前出金の預金口座

一部の預金口座は夫名義の口座であるところ、本件基準時の直前の平成30年11月に預金全額に近い87万5304円が引き出されていることが認められ、このような取引状況に照らせば、夫が管理する口座であると認めざるを得ないと指摘。

同額を基準時残高に加えた90万8971円を財産分与対象財産であると認めるのが相当としています。

直近の出金を預金残高とみなして財産分与を命じるものです。

 

財産分与財産のまとめ

このような財産分与対象財産の認定を進め、

妻名義の財産分与対象財産の額は1938万1240円となり、

夫名義の同財産の額は4492万9918円となるとしました。

合計6431万1158円という認定です。

 

財産分与の分与割合及び分与方法

財産形成の寄与の割合は、それぞれ2分の1とするのが相当としました。

夫は、財産分与対象財産の形成においては、父母の協力による生活のための支援として受けた財産が多く含まれていることを主張していましたが、このような事情は「一切の事情」として考慮するのが相当であり、夫の寄与として考慮することは相当ではないとして、原則通り2分の1という認定をしました。

 

民法768条3項にいう「夫婦の協力によって得た財産の額」は合計6431万1158円。

財産形成の寄与割合は2分の1ずつであると認められるから、これを前提とすれば、相手方が取得すべき財産分与の額は3215万5579円となるとしています。

 

 

各財産の形成においては、父母が代表取締役として実質的に決定することができる本件各会社の給与又は取締役報酬が振り込まれた預金のほか、夫が父母と相談して父母の資金提供を受けて形成した財産が多くを占めていることが認められる一方で、妻はこれらの資産形成の経緯や夫の負担額の有無及び内容について十分に認識していないことがうかがわれるだけでなく、自己名義の財産についても、記憶にないものや、父が管理していてその内容を把握していないものがあることが認められると指摘。

財産分与の対象財産と認められた財産についても同様であり、妻は、妻口座の預金について、本件各会社の従業員及び取締役として稼働実態がない旨の夫の主張に対し、具体的な反論も資料も提出していない点にも触れています。

そうすると、本件における夫婦の財産形成及び財産管理の実情を総合すれば、本件における財産分与対象財産(夫婦の協力によって得た財産)の額には、夫の父母による支援の結果として形成された、夫婦の協力によって得たものとはいい難い財産が相当額含まれていることが認められると指摘。

そうである以上、妻が求める本件の財産分与の判断においては、このような事情を「一切の事情」として考慮するのが、財産分与における当事者の衡平を図る上で必要かつ合理的であると認められるとしています。

これにより、分与額を修正し、一部の妻口座の預金を除く妻名義の財産については妻が取得することを前提に、夫に対して、本件の財産分与として2800万円を妻に支払うように命ずるのが相当としました。

 

財産分与放棄の主張

なお、夫は、妻が財産分与を放棄したと主張していました。

妻が、飲酒の上で物損交通事故を起こした夫とは夫婦でいることはできないと執拗に主張して、協議離婚届の用紙を準備した上で、「慰謝料はいらない。関わりを持ちたくないので財産もいらないから、とにかく離婚してくれ。」などと要求したため、やむを得ず離婚に応じたもので、妻は財産分与請求権を放棄していると主張していました。

しかし、裁判所は、妻名義の財産について財産分与の対象となり得る多額の財産があるのに、当事者双方の合意によるのではなく、妻のみが一方的に財産分与請求権を放棄する(あるいは同権利を行使しない)意思表示をしたものであるとは考え難いことや、協議離婚届を作成する際に財産分与請求権の放棄に関する書面が作成されていないことに加えて、夫は妻から財産分与請求を受けることを前提とした行動をとっていること、夫から妻に対し離婚を求めた経緯がうかがわれることに照らすと、妻が、夫に対し、離婚することを提案し、その際に財産分与請求権を放棄する旨を申し出たとは認められないとしました。

 

オーバーローン不動産の債務

夫は、一部の夫名義の不動産(マンション)について、オーバーローンであるなら、零円と評価するのではなく、不動産の評価額を積極財産として計上し、ローンの金額を消極財産(債務)として計上すべきである旨主張していました。

裁判所は、夫がローン残額の全額を単独で負担することを前提に、妻が、同不動産の持分2分の1を夫に分与することが相当であり、それ以上に、上記ローン残債務を財産分与において考慮する必要は認められないと指摘。

また、別の不動産については、夫名義で同不動産を第三者に賃貸して賃料収入を得ていることが認められる一方で、妻が主として使用収益しているという事情も認められないと指摘。そうすると、夫が同不動産を引き続き保有して賃料収入を得ることを前提に、上記ローンの支払義務を引き続き夫が負うものとするのが相当と結論づけました。

ローンのマイナス分は考慮しないという判断です。後者のように収益物件だと、このような判断がされることが多いです。収益物件のオーバーローンは、長期間の収益で返済できることが前提とされているため、一時的なマイナス分を財産分与で考慮するのは相当でないという考えです。

 

財産分与一覧表

財産分与では、当事者双方がその協力によって得た財産を分与することになります。

そこで、財産分与の認定のためには、財産分与の基準時に夫や妻の名義で存在ずる財産をリストアップするほか、第三者名義になっている財産がないか、当事者が基準時前に処分した財産の実質を調査することになります。

通常、財産分与審判では、財産分与一覧表などが作成され、それぞれの主張が整理されます。

 

親族の特有財産

本件のように家族が資金提供している財産の場合には、特有財産の主張がされることも多いです。

財産分与の対象からはずすべきとの主張です。

本決定は、両親が資金を出した預金についても両親の特有財産と認めない一方で、夫婦の協力で得た財産ではない部分も相当額含まれているとして、民法768条3項の「一切の事情」として考慮するとしています。

資金提供の流れが預貯金明細などから分かる場合にはその証拠提出、証拠がない現金のやりとりでも、夫婦の財産から支出された記録があるのか等を個別に具体的に示していくのが有効といえるでしょう。


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