合意後の養育費請求は家庭裁判所ではなく地方裁判所とすべきとした裁判例。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.合意後の養育費請求はどの裁判所?

養育費問題だと、家庭裁判所への調停を最初に検討しがちですが、当事者間で合意がされている場合には、地方裁判所へ訴訟提起が原則となります。

家庭裁判所で進めて、高等裁判所まで行き、結局、地方裁判所へ提訴しなさいと言われた裁判例がありますので紹介しておきます。

東京高等裁判所令和5年5月25日決定です。

この判例をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・養育費の合意があるが払われない人
  • ・協議書等で違約があったので養育費を停止したい人

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2024.4.24

養育費合意の事案

本件は、離婚を経た元夫婦間で発生した養育費の支払い問題に関する法的争いです。

元妻と元夫は、以前に養育費の合意をしました。

その合意に基づき子供たちの養育費の支払いが行われるべき状況でした。しかし、夫は妻が合意中の誓約禁止規定に違反したと主張し、これを理由に養育費の支払いを停止したため問題となりました。


千葉家庭裁判所松戸支部における原審では、夫の支払終了に関する主張が排斥されました。

裁判所は、本件合意に基づく養育費支払義務は依然として有効であると認定。また、事情変更が認められる事由も見当たらないと判断し、子供一人当たり月額3万円の養育費を支払うよう命じました。

この原審の判断に対し、抗告が行われた際、高等裁判所は異なる見解を示しました。

抗告審では、養育費の支払いを求める際は、地方裁判所にて民事訴訟手続きを通じて訴えを提起し、判決を得るべきであると判断。家庭裁判所における家事審判の申立てでは不適切であるとして、原審の審判を取り消し、申立て自体を不適法と判断して却下しました。

選択した手続きがおかしいとの判断です。家庭裁判所ではなく、地方裁判所でやれ、という手続き面で問題視した判断です。

 

養育費に関する民法の規定

民法においては、養育費の支払いに関する規定が明確に定められています。

民法766条2項は、当事者間で養育費の協議が整わない場合、または協議が不可能な場合には家庭裁判所が介入して養育費を定めることを認めています。

更に、家事事件手続法においても、家庭裁判所が養育費の定めを変更することが可能であるとされています。

 

しかし、問題は当事者間で養育費に関する合意が既に成立しており、その合意を変更する必要がない場合にどのような手続きを取るべきかという点にあります。

通常、合意に基づく養育費の支払い義務が明確に定められている場合、家庭裁判所が新たに介入する必要性は低いとされています。

特に、調停手続きや公正証書により合意が形式化されている場合、その合意で、強制執行による差し押さえができます。

 

これに対し、合意が口頭でのみなされた場合や、書面があるものの、念書や誓約書、離婚協議書など執行力を持たない場合には、家庭裁判所において新たに債務名義を作成する必要が生じることがあります。

このような場合に、家事審判を通じて養育費請求の申立てを行うことも一つの有効な手段とされています。家庭裁判所は、合意の存在を考慮しつつ、具体的な支払い義務の内容を確定する役割を果たすはずです。


家裁実務の運用

家庭裁判所では、当事者間の養育費に関する合意が既に成立している場合であっても、その合意を債務名義として適切に扱うための柔軟な対応が見られます。

具体的には、家事調停が申立てられた際、直ちに民事訴訟の提起を促すことなく、当該合意に基づき義務者との再合意を図る運用が採られています。

 

また、合意が一時的なものであったり、双方が合意内容にこだわらない場合、改定標準算定方式に基づいて養育費の新たな取り決めを求める意向がある場合には、家庭裁判所は通常の事案と同様に養育費等の調停・審判を進めます。

この際、既存の合意内容に拘束されずに審理・判断を行うことが可能です。

 

養育費の変更

さらに、当事者間の合意が成立している場合でも、事情変更があるとして養育費の増額や減額を求める場合、家庭裁判所は事情変更の有無を審理します。

事情変更が認められる場合には、合意の内容を変更し、その支払を命じる審判を下すことができます(民法766条3項、家事事件手続法154条3項)。

一方で、事情変更が認められない場合でも、債務名義がない事案においては、迂遠な手続きを避ける観点から、養育費等の支払を命じる家事審判の実施が求められることがあります。

 

 

本決定は、養育費に関する当事者間の合意が確定的であり、事情変更がない場合における家庭裁判所の役割を明確にしています。

具体的には、債務名義が存在しない状態でも、当事者間の確定的な合意に基づく養育費の支払いを求める場合は、民事訴訟を通じて地方裁判所に訴えを提起し、判決を求めるべきとしています。

これは、家庭裁判所において家事審判を申し立てる代わりに、より形式的な民事訴訟手続きを利用することで、法的確定性を高めるという考え方に基づいています。

 

なお、本決定では、特定の違反行為があったとしても、それにより養育費の支扅義務が直ちに消滅するわけではないと説示しています。

この部分は、当事者間で定められた支払終了規定の適用について、その合意が即座に効力を発揮するものではなく、消滅事由の有無は民事訴訟手続によって確定すべき事項であると位置付けています。

 

 

東京高裁の決定

東京高等裁判所令和5年5月25日決定です。

原審判を取り消し、申立てをいずれも却下するとの結論です。

協議離婚し、その後、子らの養育費について、子らがそれぞれ高校を卒業する3月まで、子1人につき月額3万円を支払う旨の合意。

 

当裁判所は、本件合意に基づき、抗告人が相手方に対して子らの養育費を支払う義務があることを前提とすると、家事事件手続において、抗告人に対し、子らの養育費を相手方に支払うよう命じるようことはできないから、本件申立てはいずれも却下するのが相当としています。

 

養育費合意の内容

本件離婚協議書第2条2項には、「乙が本件離婚協議書の契約を守らなかった場合違約金として、甲は養育費の支払いを終了とする。」と規定され、本件離婚協議書第5条1項には、「甲と乙又は前記子が婚姻期間中の夫婦間しか知りえない情報や、相手方(再婚者)の名誉や尊厳に関わる事項につき、第三者に口外・漏えいしないことを約束し、違反があった場合には、損害賠償請求のために必要となる裁判費用や弁士費用、その他の必要な費用を、相手方に支払う。」と規定され、

本件離婚協議書第8条1項には、「甲および乙及び前記子らは、どんな理由があろうと他方および他方の親族または関係者を訪ねる等、通信機器などで電話、メール、SNS等を使い連絡を取る事を一切行わない。」と規定。

また、本件離婚協議書第3条1項には、「乙は、甲が前記子らと面会交流することを認める。」と、

同条2項には、「面会交流の具体的な日時及び場所については、前記子らの福祉に配慮して、甲及び前記子らが協議して定める。」と規定。

 

高裁の考え方

相手方が、本件合意に基づき、抗告人に対し、子らの養育費を支払うよう命じることを求める場合には、地方裁判所に対し、抗告人を被告とする訴えの提起をし、判決を求める民事訴訟手続によるべきであって、これを家庭裁判所に対して求めることはできない。

また、本件において、本件合意の基礎とされた事情に変更があったとして、民法766条3項に基づき、本件合意により定めた養育費の額の変更を検討するとしても、上記事情の変更を基礎付ける事情についての当事者の主張はなく、これを認めるに足りる資料もない。

 

違約条項でも養育費は支払い義務

なお、本件において、抗告人は、相手方には本件誓約規定ないし本件禁止規定に係る違反事由があり、本件支払終了規定が適用されることなどを理由として、子らの養育費の支払をしていないものと解される。

しかし、抗告人が相手方に差し入れた令和3年6月7日付け誓約書には、本件合意と同内容が記載されているが、本件誓約規定ないし本件禁止規定に違反するような相手方の行為を理由に、抗告人の養育費支払義務を消滅させる旨の記載はないことが認められる。

また、抗告人が相手方に差し入れた同日付け誓約書には、「一切連絡をしない事。侮辱するような事、または、嘘を周りに言わない事。これらの事を破った際には、法的手段も検討します。」との記載があることが認められるが、同誓約書の文言をもって、本件誓約規定ないし本件禁止規定に違反するような相手方の行為を理由に抗告人の養育費支払義務を消滅させる趣旨であると解することはできない

そして、一件記録を検討しても、本件合意が定められた時点において、上記のような相手方の行為を理由に抗告人の養育費支払義務を消滅させることが想定されていたというべき事情を認定することはできないと指摘。

さらに進んで、令和3年12月に本件離婚協議書を作成した際の当事者双方の意思について検討するに、本件面会交流条項は、面会交流の具体的な日時や場所については、抗告人と子らが協議して定める旨を規定しており、抗告人、相手方及び子らが連絡を取ることを一切禁止する旨の本件禁止規定の文言と明らかに矛盾する部分があるから、本件禁止規定の文言は限定的に解釈する必要があると指摘。

また、本件誓約規定や本件禁止規定に記載された事由には、文言上、他方当事者に重大な損害を与えると認められる違反行為から、他方当事者には損害が発生しない軽微な違反行為までが含まれると解されるところ、子らに対する抗告人の扶養義務の履行という養育費の性質に鑑みれば、後者の軽微な違反行為により当然に養育費の支払義務が終了すると解することは、子の福祉に反するばかりか、当事者間の衡平にも反するというべきである。

 

そうすると、仮に、相手方に本件誓約規定や本件禁止規定の文言に形式的に該当する違反行為があったとしても、それをもって直ちに、抗告人の養育費の支払義務を消滅させるとの合意(本件支払終了規定)の適用があるということはできず、抗告人は当該支払義務を免れないものと解されると指摘。

 

 

まとめ

養育費問題だと、家庭裁判所への申立だと思いがちですが、このように合意が明確にあり、変更などの申立ではない場合には、家庭裁判所ではなく地方裁判所での対応が必要になります。

また、この決定は、養育費の支払終了規定がある場合においても、単に合意があったとしても、その違反が自動的に養育費支払い義務の消滅を意味するわけではないことを明確にしています。

この点の相談はよくあります。違反があったから、養育費を支払わなくても良いですよね?という相談です。しかし、そうはいかないというのが今回の内容です。

この高裁決定だと、結局、請求側は地方裁判所に提訴し直す必要がありますが、高裁は、あえて養育費の支払い義務は残るという話まで触れて、養育費の支払いを促すような動きに出たものと思われます。

この決定を見て、養育費の支払いが再開されるのであれば事件としては解決となりますし、そうでないとしても、地方裁判所への提訴後に、この高裁決定を出すことで、判決なり和解なりをしやすくした配慮を感じます。

 

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