オーバーローン不動産の離婚時の財産分与の裁判例解説。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.オーバーローン不動産の財産分与は?

2025年8月、東京高等裁判所が下した重要な判決が、離婚時の財産分与における新たな指針を示しました。

住宅ローンの残債が評価額を上回る「オーバーローン不動産」について、原則として全財産を通算して算定する一方で、一方当事者に著しく不利な結果をもたらす場合には例外的な考慮が必要であると判断。

オーバーローン不動産を抱えて離婚調停などをしている人は、違う内容を提示された際に、この裁判例を示すなどすると良いでしょう。離婚前に財産分与のシミュレーションをする場合なども、現実的にどうなりそうか意識する必要があります。

この記事をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・自宅不動産がある離婚協議中の夫婦
  • ・オーバーローン状態の不動産がある人

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2025.5.30

オーバーローン財産分与の事案

この事案は、長年の婚姻生活の中で夫婦が取得した自宅不動産について、住宅ローンの残債が不動産評価額を大きく上回る状態、いわゆる「オーバーローン」の状況にあったことが大きな争点となりました。

妻(控訴人)は、自宅とローンを財産分与の対象から除外し、残る夫名義の積極財産の半分を分与すべきと主張。

これに対し、夫(被控訴人)は、不動産もローンも財産分与の清算対象とするべきと反論しました。

不動産はマイナスなので、これも対象にしたほうが夫には有利な内容になります。

具体的には、不動産と住宅ローン債務を財産分与の対象から除外して残余の夫婦共有財産について算定するか、または夫婦各々の積極財産の総額から消極財産の総額を控除した残額について算定するかが問題となりました。

財産分与

 

妻の主張

主な争点が、財産分与の算定方法におけるオーバーローン不動産の取り扱いです。

妻Yの主張: オーバーローン物件である本件自宅とその住宅ローン債務は財産分与の対象から除外し、残りのX名義の積極財産の2分の1をYに分与すべき。

 

横浜家庭裁判所横須賀支部の判断

本件は、夫(X)が妻(Y)に対して離婚および離婚慰謝料(不貞行為や悪意による遺棄)を請求し、Yが反訴として離婚、離婚慰謝料、財産分与、および年金分割を求めた事案です。

夫婦共有財産は、主として、自宅及び夫の退職金。自宅には評価額の3倍を超える残債務のある住宅ローンに係る抵当権があり、上記夫婦共有財産の総評価額は193万円余りの債務超過となっている状態。夫の年齢は、基準日時点で53歳。将来の退職金も微妙です。

オーバーローン

原審(横浜家庭裁判所横須賀支部)は、双方の離婚請求を認め、Xの離婚慰謝料請求の一部を認容し、年金分割の按分割合を0.5と定めましたが、Yの慰謝料請求を棄却し、財産分与については分与すべき財産がないとして申立てを却下しました。

これに対し、Yが慰謝料請求の敗訴部分と財産分与に関する判断部分について控訴しました。

 

高等裁判所の判断:通算方式が原則、ただし例外も

高等裁判所は、まず基本原則として、「夫婦が協力して得た財産すべてを対象に清算するのが財産分与の本旨」であるとし、不動産と住宅ローンを分けて考えることは、財産分与制度の理念に反すると指摘しました(いわゆる通算方式)。

つまり、プラスの資産とマイナスの負債を差し引いて総合的に勘案するという考え方です。

ところが判決はさらに一歩踏み込み、この通算方式に従うことで、離婚後に財産を取得できず、経済的に困窮する側が著しく不利になる場合には、「民法768条3項が定める『一切の事情』」として、特例的に異なる算定方法を用いることも合理的だと判断しました。

たとえば、以下のようなケースが考えられるでしょう。

不動産評価額を上回るローンのために、実質的な分与財産が消失する

不動産を手放す側が住居を失い、生活の安定を著しく損なう

一方がローン返済を続けることで、後に利益を得る蓋然性が高い

こうした場合には、通算方式による「見かけ上の公平さ」が実際の不公平につながるとして、柔軟な判断を認める余地があるとしたのです。

 

高等裁判所の結論、住宅ローン除外

今回の事案では、控訴人である妻が自ら不動産を出て別居し、居住権を放棄したこと、また夫の退職金も不確定であることなどから、裁判所は「通算方式を用いても衡平を害する事情はない」として、妻の財産分与請求を却下

原審の判断を支持し、控訴は棄却されました。

東京高等裁判所令和6年8月21日判決です。

この判決は、家庭裁判所での財産分与において、

通算方式を原則とする明確な姿勢

一方の困窮や不動産処分後の利益享受などを考慮すべき例外要素の提示

という2つの視点を提示したことで、財産分与に関する裁判実務に一定のガイドラインを与えるものです。

今後、離婚に伴う財産分与に際し、不動産がオーバーローンであるという一点のみで分与を否定されるのではなく、その後の生活への影響や取得財産からの利益可能性まで含めた、より実態に即した判断が期待されるようになるでしょう。

 

高等裁判所の判決内容

本判決の判断(原則論): 本判決は、離婚における財産分与は、夫婦が婚姻期間中に協力して得た全ての財産(積極財産および消極財産)を総合考慮して算定するものであるとの原則を示しました。

「離婚における財産分与は、夫婦が婚姻期間中にその協力によって得た全ての財産(積極財産及び消極財産)を総合考慮して算定するものである以上、財産分与の対象財産中に不動産及びその評価額を超える住宅ローン債務が存在する場合において、他に財産分与の対象となる積極財産が存在するときには、それらの評価額を通算して財産分与の額及び方法を定めることが相当であると解される。」

本判決の判断(例外的な考慮事項): しかしながら、住宅用不動産は性質が異なり、住宅ローン債務は不動産取得のための借入債務である側面もあることから、上記の原則的な清算方法では当事者間の衡平を害するような事情が認められる場合には、民法768条3項の「一切の事情」として考慮し、異なる財産分与の額および方法を定めることにも合理性があることを示しました。

「ただし住宅用不動産は他の財産分与の対象となる財産(動産,流動資産)とは性質を異にし,住宅ローン債務は,当該不動産を取得することを目的とする借入債務であって,離婚の成立後の支払分は財産分与により当該不動産の全部を取得する配偶者にとってその取得のための対価的性質を持つ側面もあるといえるから 上記のような清算方法によったのでは財産分与における当事者間の衡平を害するというべき事情が認められる場合には,離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため,当該事情を民法768条3項の「一切の事情」として考慮して,上記清算方法と異なる財産分与の額及び方法を定めることにも合理性が認められる」

特に、オーバーローン不動産が存在し、原則的な算定方法によれば不動産を取得できない配偶者が退去を余儀なくされ、分与財産がないか著しく少額となり、離婚後の生活が困難となる可能性がある一方で、不動産の所有名義人が使用収益を継続しつつ、離婚後の収入等で債務を返済することで最終的に負担のない所有権を得たり、これを処分して利益を得る蓋然性が認められるような場合には、そのような帰結が衡平を害するとして「一切の事情」として考慮すべき場合があり得ると指摘しました。

「特に,不動産にその評価額を超える住宅ローン債務が存在し,他の積極財産の評価額と通算して財産分与の額を定める上記清算方法によれば,不動産を取得できない配偶者において,当該不動産からの退去を余儀なくされる上,分与されるべき財産が存在せず,あるいは離婚後の生活が困難となる程度に分与額が少額となるような場合において,他方の配偶者が,所有名義人として当該不動産の使用収益を継続しつつ,離婚後の収入及び取得財産によって住宅ローン債務を返済することで最終的に負担のない同不動産の所有権を取得し,あるいはこれを処分することで一定の利益を得る相当程度の蓋然性が認められるときには,そのような帰結が離婚後の当事者間の財産上の衡平を害するものとして上記「一切の事情」として考慮すべき場合もあり得ると思われる。」

 

本件における結論: 本判決は、本件の事実関係(婚姻関係破綻の責任の過半がYにあり、Yが自ら自宅を出て別居している状況や、その他の積極財産の見通しの不確実性など)の下では、原則的な算定方法が衡平を害するというべき事情は認められないとして、原審の判断を相当であるとしました。Yの「住宅ローン債務は今後の返済でなくなり、被控訴人は抵当権のない本件自宅を所有することになる」との指摘に対しては、それは基準日後の被控訴人による債務返済行為による事態であり、基準日における財産分与の判断を左右する事情ではないと退けました。

 

民法768条は、当事者間の協議または家庭裁判所の処分により財産分与が定められることを規定しており、家庭裁判所は「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」判断することを示しています。

 

財産分与の機能

財産分与の機能としては、①夫婦財産関係の清算、②離婚後の扶養、③離婚に伴う損害賠償の3つの要素が含まれるのが一般的ですが、民法が「当事者双方がその協力によって得た財産の額」を考慮要素と明示していることから、夫婦の実質的共有財産の清算が制度の中心であると解されており、裁判実務でも清算的要素が主として考慮され、その他の要素は補充的とされています。

財産分与の対象財産は、経済的協力関係が終了した時点を基準として確定され、金銭的に評価した上で、清算的要素における寄与度や扶養的要素、慰謝料的要素に係る事情を「その他一切の事情」として考慮し、合理的な裁量に基づいて定められています。

 

オーバーローン不動産に関する裁判例の動向

オーバーローン不動産を含む事案に関する従来の裁判例は分かれています。

通算説: 財産分与が全資産・全負債を総合考慮して算定されることを理由に、不動産と住宅ローン債務を他の財産と切り離さず、全体として通算して財産分与額を算定する裁判例が多いです。

例外的な考え方: 一方で、財産分与制度が積極財産の清算を中心とするものであるとして、オーバーローン物件については不動産を無価値なものとして財産分与の対象から除外し、不動産と住宅ローン債務を希望する所有名義人に取得させる裁判例も見られるとされています。

この考え方の実質的な理由として、不動産が婚姻生活上の住居として取得され、協力してローン返済が行われてきたこと、離婚後の不動産所有名義人は使用収益や有利な処分による利益を享受できる可能性がある一方で、非所有名義人は退去を余儀なくされ、他の積極財産もローン債務と通算されることで分与を受けられないか少額になるなど、衡平を害する可能性がある点が挙げられています。

離婚調停などでは、この考えを前提に進められてしまうこともあります。


財産分与に関するQ&A

Q1. 財産分与とは何ですか?

財産分与とは、離婚をした夫婦の一方が他方に対して、婚姻期間中に協力して築いた財産を分けるよう請求できる制度です。民法第768条に定められており、主な目的は以下の3つと解釈されています。

夫婦財産関係の清算としての要素: 夫婦が婚姻中に協力して得た実質的な共有財産を清算すること。
離婚後の生活に困窮する配偶者の扶養としての要素: 離婚によって生活が困難になる配偶者を扶養すること。
離婚に伴う損害賠償としての要素: 離婚の原因を作った配偶者に対して、慰謝料的な意味合いで財産を分与すること。
このうち、最も中心的な機能は「夫婦の協力によって得た財産の清算」であると理解されており、実際の裁判実務でもこの清算要素が主に考慮されます。その他の要素は補充的なものとして扱われます。

 

Q2. 財産分与の対象となる財産は?

財産分与の対象となる財産は、夫婦が婚姻期間中にその協力によって得た全ての財産、すなわち積極財産(預貯金、不動産など)と消極財産(住宅ローンなどの債務)を総合的に考慮して算定されます。財産分与の基準時は、夫婦の経済的協力関係が終了した時点(多くの場合は別居時や離婚時)とされます。この基準時において存在する積極財産と消極財産を金銭的に評価し、「夫婦がその協力によって得た財産の額」を算定します。

 

Q3. オーバーローン状態の不動産がある場合は?

財産分与の対象財産に、不動産の評価額を上回る住宅ローン債務(オーバーローン)がある居住用不動産が含まれる場合、その算定方法には主に2つの考え方があります。

通算説: 不動産と住宅ローン債務を含む全ての積極財産と消極財産を総合的に考慮し、全体の総資産から総負債を差し引いた残額に基づいて財産分与額を算定するという考え方です。この考え方によれば、オーバーローン部分も他の積極財産と通算して清算の内容を定めることになります。

不動産とローンを対象から除外する考え方: 不動産の評価額を上回る住宅ローン債務がある場合、不動産は財産分与の対象財産としては無価値であるとみなし、不動産と住宅ローン債務を財産分与の対象から除外するという考え方です。

この場合、不動産の所有名義を有する配偶者が不動産と住宅ローン債務を取得し、残りの夫婦共有財産について財産分与を行うことになります。


多くの裁判例では通算説の考え方を原則としていますが、本判決は、後述の「一切の事情」を考慮して例外的に異なる定め方をする可能性を示唆しています。

 

Q4. 裁判所は財産分与の額や方法をどのように決定しますか?

財産分与の内容(分与させるべきか、その額及び方法)は、当事者間の協議で決まらない場合や協議ができない場合に、家庭裁判所が定めます。家庭裁判所は、民法第768条第3項に基づき、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮して判断します。

「当事者双方がその協力によって得た財産の額」は、前述のように基準時における積極財産と消極財産を総合的に評価して算定します。

「その他一切の事情」には、財産形成における当事者の寄与度、扶養的要素、慰謝料的要素に関する事情などが含まれます。裁判所はこれらの事情を総合的に考慮し、合目的的かつ合理的な裁量に基づいて財産分与の内容を定めます。

 

Q5. 不動産の評価額を超える住宅ローン債務がある場合でも、通算説以外の算定方法が認められるのはどのような場合ですか?

本判決のポイントとして、原則として不動産とその評価額を超える住宅ローン債務を含む全ての財産を総合的に考慮して財産分与額を算定する通算説の考え方を原則としつつも、「離婚後の当事者間の財産上の衡平を害するというべき事情が認められる場合」には、通算説と異なる財産分与の額及び方法を定めることにも合理性が認められると示唆しています。

具体的には、不動産に評価額を超える住宅ローン債務が存在し、他の積極財産と通算して算定すると、不動産を取得できない配偶者が退去を余儀なくされる上に分与されるべき財産がなく、あるいは離婚後の生活が困難となるほど分与額が少額になるような場合を挙げています。このような状況で、他方の配偶者が不動産の使用収益を継続しつつ、離婚後の収入等でローンを返済することで最終的に負担のない所有権を取得し、あるいは売却して利益を得る蓋然性が高い場合には、そのような結果が離婚後の当事者間の財産上の衡平を害するものとして、民法第768条第3項の「一切の事情」として考慮すべき場合があり得ると判断しています。

Q6. 本判決において、妻(控訴人)が主張したオーバーローン不動産の算定方法は?

本判決において、妻(控訴人Y)は、夫(被控訴人X)名義の自宅不動産はいわゆるオーバーローン物件であるため、不動産とその住宅ローン債務を共に財産分与の対象から除外した上で、残余の夫名義の積極財産の2分の1を妻に分与すべきであると主張しました。これは、オーバーローン不動産と住宅ローンを他の財産と切り離して扱うべきという考え方に基づいています。

 

 

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