婚姻費用請求で潜在的稼働力のポイントについて裁判例解説。神奈川県厚木・横浜市の弁護士

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よくある質問

 

Q.婚姻費用請求で潜在的稼働力のポイントは?

収入がない、病気で働けないと主張する夫への婚姻費用請求が認められるか争われた事件があります。

ここで問題になったのが潜在的稼働力。

家裁と高裁で異なる結論が出されています。潜在的稼働力の主張がある場合にはチェックしておいたほうが良いでしょう。

 

この判例をチェックすると良い人は、次のような人。

  • ・婚姻費用請求したいが相手が無職
  • ・病気なのに婚姻費用を請求されている

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2022.4.22

事案の概要

妻(昭和58年生)、子が1歳。

夫(昭和61年生、自主退職して無職)。

子を監護し、無職・無収入の妻から夫に対し、婚姻費用の分担を請求した事件です。

夫は、精神科に通院、適応障害により就労は困難と診断されていました。

一方で、直近の勤務先での就業中、一定期間にわたり複数の勤務先で働いていた事実もありました。

このような点から、潜在的稼働力による基礎収入が認定できるか問題になりました。

 

潜在的稼働力とは?

本来、婚姻費用や養育費は、実際の収入を基礎収入として金額を決めます。

ただ、実際の収入から算出すると、不公平になることもあります。

たとえば、婚姻費用を下げるために、あえて退職して一時的に収入を下げるような人もいます。

働いていなければ、婚姻費用を払わなくて良い、と考える人も出てきそうです。また、収入に関する資料提出を拒否する人もいます。

そのため、過去の実績等から、婚姻費用を決める際に、実際には得られていない収入であっても、その人であれば、得られるであろう収入を想定する方法が潜在的稼働力による収入認定です。

実際には得ていないものの、潜在的には、その人には働ける力があるから、それに基づき収入を認定する方法です。

過去の収入や平均的な収入から、普通に働けば、これくらいは稼げるだろう、という数字で婚姻費用が決められるわけです。

Q.婚姻費用と潜在的稼働力とは?

 

 

家庭裁判所は潜在的稼働力による認定

家庭裁判所は、退職して間もないことなどを理由に、直前の給与収入の5割程度に相当する約174万円の稼働能力を有するとして、これを基礎収入としました。

その結果、婚姻費用として月額4万円を支払うよう命じています。

宇都宮家庭裁判所令和2年12月25日審判です。

病気で実収入がないにもかかわらず、婚姻費用の支払いが発生したわけです。

夫は不服申立てをして、事件は高等裁判所で審理されることになりました。

 

高等裁判所は潜在的稼働力を否定

抗告審の高等裁判所は、潜在的稼働力を否定しました。

婚姻費用を分担すべき義務者の収入は、現に得ている実収入によるのが原則であるところ、失職した義務者の収入につ
いて、潜在的稼働能力に基づき収入の認定をすることが許されるのは、就労が制限される客観的・合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合でなければならないものと解されるとしています。

本件では、特段の事情があるとは認められないとして、原審判を取り消し。

申立てを却下しています。

東京高裁令和3年4月21日決定です。

 

裁判所による婚姻費用のポイント

裁判所は、抗告人は、自殺企図による精神錯乱のため警察官の保護を受け、それをきっかけとして、職場を自主退職し、「主治医の意見書」において、抗告人の就労は現状では困難であるとされている点、

自主退職後、就職活動をして雇用保険の給付を受けたことはなく、現在においても、就労していない点、

精神障害者保健福祉手帳の交付申請をしている点を指摘。

そうすると、抗告人が自主退職した職場で勤める前には複数の勤務先で勤務した経験を有していたこと、抗告人が自主退職してから現在まで1年が経過していないことを考慮しても、抗告人において、就労が制限される客観的、合理的事情がないのに主観的な事情によって本来の稼働能力を発揮しておらず、そのことが婚姻費用の分担における相手方との関係で公平に反すると評価される特段の事情があるとは認められないというべきであるとしています。

 

婚姻費用の基本的な考え方

夫婦は、互いに協力し扶助しなければならないとされています(民法752条)。

別居した場合でも、自己と同程度の生活を保障するいわゆる生活保持義務を負うというもの。

婚姻費用の分担額は、義務者世帯及び権利者世帯が同居していると仮定して、義務者及び権利者の各総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して得られた各基礎収入の合計額を世帯収入とみなし、これを生活保護基準等から導き出される標準的な生活費指数によって算出された生活費で按分して、義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定する、いわゆる標準算定方式が採用されています。

 

ここで、基礎となる総収入をいくらと認定するのかが問題になるのです。

 

潜在的稼働能力が認められるのは?

収入認定については、実際の収入が原則となりますが、例外的に、働けるであろう潜在的稼働力による推測上の数字が認定されることがあります。

このような例外的な認定が許されるのは、どのような場合なのでしょうか。

明確な基準はありませんが、最近の東京高裁の裁判例では、簡単に潜在的稼働能力が認定される事件は減っています。

本決定では、「権利者との関係で公平に反すると評価される特段の事情がある場合」とされています。

潜在的稼働力については、裁判所による判断のばらつきが見られる論点です。

しっかり有利な事情を主張、立証しないと危ないでしょう。

 

とはいえ、病気でも潜在的稼働力を認定して婚姻費用の支払いを命じるのは行き過ぎな印象を受けます。

そうすると、医師の診断書などが強く評価される問題といえるでしょう。

 

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