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よくある質問

 

Q.父に監護権が認められるケースは?

父親の立場から監護権者に指定されたい。

子供がまだ小さい場合、監護権者は母親に指定されやすいと聞いたことがあるかもしれません。

しかし、父親が指定される裁判例も多数あります。

そこで、今回は、父親に監護権が認められた裁判例を紹介します。

福岡高等裁判所令和元年10月29日決定です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.7.30

別居後、父親の実家で子供を監護していた点、その間に二女が小学校に入学している点がポイントになっているといえます。

 

事案の概要

夫と妻は、平成21年に婚姻。妻は、看護師としての稼働歴があります。

平成30年4月に別居。

2人の間には、長女(平成22年生)及び二女(平成24年生)がいました。

別居の原因は、妻の男性関係。

夫が子らを連れて、自宅近くにある実家に戻ったことが別居の開始。

妻は、二女出産後、精神的に不安定となり、心療内科に通院。平成28年以降、抑うつ神経症を発症。これにより、通院・服薬している状態。

 

同居中は、夫婦ともに複数回の転職がありました。

夫の稼働期間中は、帰宅時間が遅かったことなどから、主たる監護者は妻でした。

これに対し、夫の求職中は、夫が家で子らの世話をすることが多かったとのこと。

特に、妻が精神的に不安定になってからはそうした傾向に。

子らは、地元の保育園に通い、別居時点で、長女は小学2年生、二女は保育園年長。


妻は、夫が子らを連れて父方実家に帰る際には、強い抵抗を示さなかったものの、別居後間もなく、監護者の指定と子の引渡しを求める審判を申し立て。


妻は、別居の翌月、県外の自分の実家に転居しています。

 

家庭裁判所の判断

家庭裁判所は、妻の申立を認容。監護者の指定と引き渡しを認めました。

当事者双方の監護能力、監護環境等については、いずれが特に優位にあるとまではいえないとしました。

従前の監護については、主として妻により行われた時期も比較的長期間あるほか、未成年者らの心情を踏まえ、母親による監護が実施されることが、未成年者らの福祉によりかなうとしました。

 

調査官調査のの結果、子らの心情としては、長女が妻と暮らしたいと発言するなどしていたことを重視した判断となりました。

夫がこれを不服として即時抗告。

 

高等裁判所の判断

原審判を取り消し、申立てをいずれも却下。

夫側の主張を認めた内容となり、家庭裁判所とは逆の結論となりました。


家計の管理能力と監護権

妻は、夫の就労が不安定で収入が少ない中、パチンコでかなりの出費をしていたほか、貴金属をローンで購入したり、副業サイトで債務を負ったりしており、これらのことも一因となって生活費としての借入が増大していったと指摘。

その結果、最終的に借入額が約480万円に膨らんでしまい、平成27年10月頃、夫方祖父母にその大半を肩代わりしてもらったことがありました。

しかし、妻にはその後も借金問題が発生したことから、平成28年6月以降、夫が家計を管理するようになっていました。

 

妻の体調不良

なお、妻には喫煙の習慣があり、未成年者らの妊娠中や出産後も喫煙を続けていたほか、高血圧の症状もあり、平成29年8月頃には深夜に救急搬送されて入院したこともあったと指摘。

一方、夫は、平成27年度から保育園の保護者会の役員となり、その頃には、妻が体調不良を訴えることが多くなっていたこともあって、夫が未成年者らの監護に相当程度関与しており、平成27年11月に入社してからは就労時間も安定したため、保育園の送迎や連絡帳の記載などはほぼ夫が担っていた状態に。

また、夫は、妻名義の借入金の返済のため、平成28年6月からコンビニエンスストアで深夜のアルバイトをしていた事実も指摘。

 


別居に至る経緯

平成30年3月、妻がLINEで男性と親密なやり取りをしていることが発覚。

妻において、当該男性とは連絡しないことを約束。

同年4月2日、妻が上記とは別の男性とラブホテルに行ったことが判明。
そのため、夫は激怒し、妻に対して別居を求めたが、妻が行く当てがなかったことから、夫が未成年者らを連れて実家に行くこととなったという経緯。これについて、妻が異議を述べることはありませんでした。

 

別居後の子の生活環境

別居後の平均的な1日の過ごし方を見ると、子らは、午前6時45分頃起床。

午前7時頃、祖母が作った朝食を夫と一緒に食べ、二女が保育園通園中は、二女の身支度を夫が手伝い、午前7時15分頃、二女を車で保育園に送ってそのまま出勤。

二女が小学校に入学した後は、子らは午前7時30分頃、一緒に登校。

そして、夫は、勤務終了後、二女が通園中は帰宅途中に保育園に寄って二女を迎え、一緒に午後6時頃帰宅。

二女が入学した後は、長女の下校時刻が遅い火曜日と木曜日以外は、子らが一緒に午後3時10分から20分頃に下校し、その後は実家でおやつを食べたり宿題をしたり、遊びに行くなどして過ごしていました。

また、長女は、平成30年10月に小学校のフットベースチームに入部し、月・火・木曜日は、午後5時から午後7時まで小学校で行われる練習に参加しており、二女も入学後すぐに同じチームに入部して練習に参加するように。

夫の帰宅時間に大きな変更はないが、長女がフットベースチームに入部した後、夫も帰宅後に練習の手伝いに参加するようになっていました。

夕飯は、夫方祖母が作ったものを皆で一緒に食べ、子らは午後9時頃には就寝。


また、土曜日は、午後3時から午後5時ないし午後7時までフットベースの練習があり、日曜日は、夫が子らを連れてショッピングモールに遊びに行ったり、子らが友達と遊びに行くなどしていました。なお、休日にフットベースの試合や行事があるときは、それに参加しており、長期の休みに行われる合宿にも参加。

 

子らの健康状態と監護権

未成年者らは、平成30年8月当時、それぞれ4本虫歯があり、週1回歯医者に通っていたが、令和元年7月の時点では虫歯もなく、健康状態は良好で、発達にも問題はないと指摘。


家庭裁判所調査官が、平成30年8月29日、長女の担任教諭と面接したところ、長女は理解力が高く、学習態度、健康状態、心身の発育に問題はなし。

また、令和元年7月24日に行われた担任教諭との調査面接においても、長女は、平成30年9月以降、風邪で1日欠席したほかは、遅刻欠席がなく、発育面、健康面、衛生面のいずれにも問題はないとのことであり、友人関係や教師との関係も良好で、成績も良く、クラス全体を引っ張る存在であるといわれました。


また、平成30年8月に行われた二女の担任保育士との面接結果によると、二女も心身の発育や衛生面に問題はなく、情緒は安定して交友関係のトラブルもなく、愛嬌があって何でも意欲的に取り組み、器用にこなせる面があるほか、自発的に衣服をたたんだり、好き嫌いや食べ残しがないなど、行儀が良いとのこと。

そして、令和元年7月に行われた二女の担任教諭の面接結果によると、二女は入学してから遅刻欠席がなく、発育面、健康面、衛生面にも問題はなく、学校生活にすぐに慣れて友達もでき、授業や宿題にもきちんと取り組んでいるとのこと。


担任教諭等から見た保護者としての夫については、二女の保育園では、送迎、行事参加、提出物の管理など全て対応していたほか、数年続けて保護者会の会長をしており、また、小学校においても、提出物等の漏れはなく、家庭での学習指導も丁寧にされていると評価されており、学校行事も夫が全て参加し、ボランティア活動やPTA役員としての活動にも取り組んでいるとのこと。

 

祖父母のフォローと監護権

主な監護補助者となっている夫方祖母は、専業主婦であり、高血圧のため月1回通院しているものの日常生活に支障はなし。

実家での食事の支度や、長女の登下校の付添のほか、長女の宿題を見たりすることもありました。なお、小学校との関係では、夫に連絡が取れないときに夫方祖母が対応することになっている。

夫方祖父は、再雇用で、公共職業安定所の窓口業務に従事しており、午前6時前には家を出て、午後8時頃までに帰宅するという生活。なお、土日祝日が休みのほか、週1日休み。

健康状態は良好で、休みの日には未成年者らの遊び相手をしたり、一緒に買い物に行ったりも。

 

妻側の生活状況

妻は、自己の実家に転居していました。


実家は6Kの一戸建てであり、妻の父母と姉が同居。妻は、1階の4畳半の和室を自室として使用。


医師の意見書には、「当初は子供たちに会えないために抑うつ症状が強く思考・行動抑制が強く自宅で寝ていることが多かったが、5月18日から仕事に就き仕事は休まず勤めていた。その後徐々に症状は改善し、11月1日より本来の看護業務に就労している。現在は仕事が楽しくなり生きがいさえも話すようになっている。また子供たちと一緒に寝ると睡眠薬を飲まなくてもよく眠れている。服薬はしているが、漸減しているところである。」との記載。


また、妻は、平成30年11月16日に実施された家庭裁判所調査官の面接において、実家に戻ってからはストレスがないのでパチンコに行っていないこと、2週間に1回心療内科に通院し、抗不安薬や睡眠導入剤を服薬していること、主に職場で3、4日に一箱程度の喫煙をしていることなどを述べました。


妻が未成年者らを監護する場合に想定される監護補助者は、主に妻方祖父母であるところ、同人らは、同じ介護施設に勤務しており、祖父は弁当の配達員、祖母は調理師として業務についています。

祖父は平日の午前11時から午後0時までと、午後2時から午後4時まで勤務し、祖母は、週3、4日、午前8時15分から午後2時15分まで勤務。

給与収入は、二人で月14万円程度(このほかに祖父の年金収入が月20万円程度ある。)。

祖母は、高血圧のため2か月に1回通院しているが、日常生活に支障はなく、祖父は健康状態に問題はなし。

 


監護権と面会交流状況

夫と妻は、別居後、未成年者らとの面会交流について話し合い、平成30年5月13日から同月17日までと、同月20日から同月24日まで、妻方実家で宿泊付きの面会交流が実施。

そのため、平成30年5月は、小学校及び保育園を休むことが多く、長女については担任教諭から夫に対し、学習が遅れる可能性を指摘され、二女についても、担任保育士から妻に対し、お遊戯会の練習が遅れているとして、できるだけ欠席しないように依頼がありました。

当事者間において、面会交流の実施日や方法等を巡り、互いに主張や認識が齟齬するなどして感情的な対立が深まり、面会交流が円滑に実施されない時期もあったが、平成30年11月頃から、月1回、第4週の週末(金曜日から日曜日まで)に概ね安定的に実施されるようになっていました。

面会交流は、金曜日の夜に妻が実家に子らを迎えに行き、フェリーで移動し、土曜日に相手方と子らとでショッピングモールに行くなどして遊んで過ごし、日曜日の日中に妻が実家に子らを送り届けるという形で実施されており、子らは毎回、面会交流を楽しんでいると認定。

また、妻は、平成30年7月の面会交流の際、長女に対して携帯電話を交付し、それ以降は長女と電話やメールでもやり取りができるようになっていました。

この携帯電話を使ったやり取りは、妻から長女に連絡できる日時は日曜日午後7時と決められているが、長女からはいつでも連絡してよいことになっていました。


監護権者と子らの心情等

家庭裁判所調査官との面接において、長女は、面接の冒頭に、質問を受ける前から、「あんまりママと電話できなくて、ママと住みたいって言いたいけど、大人が周りにいるからできない。」と述べていました。

妻を慕う理由については「ママはいつもぎゅーってしてくれたり、夜一緒に寝てくれたり、髪をきれいにしてくれたり、ママは可愛いから。パパができんことをしてくれる。」などと表現。


なお、転校のことを尋ねられた際には、小学校には生徒が800人以上いて、1学年に5クラスあることなども話しており、妻からそうした話を聞いていることが窺われました。

しかし、令和元年7月に行われた調査官による担任教諭との面接では、長女は同年6月頃、一時的に不安定になり、担任教諭に対して「行ったらどうなるのかな。学校には友達もいるし、こっちにおりたいな。」と話し、「先生や友達のおかげで学校が楽しい。ずっとこの小学校にいたい。」などと書いた手紙を渡すなどしたとのことであり、こうした長女の言動は、妻との面会交流をした直後の月曜日に顕著に見られたとのことでした。


令和元年8月に行われた調査官との面接では、長女は落ち着きを取り戻しており、現在の生活状況に不満はなく、フットベースも気に入っていることを話したが、妻との面会交流の頻度をもう少し増やしてほしいとの希望を述べ、さらに、家族の和合を今でも願っている心情を吐露し、「このままパパとママが離れ離れになって、自分たちも別々になりそう。」という不安を漏らしていました。


二女は、平成30年9月の面接において、調査官から今後の希望を尋ねられると、「ママがいい。」、「ママに会えん。」などと述べたが、その理由や意味について質問されても、それ以上の回答は返ってこず。

 

裁判所の判断事情

別居に至るまでの3年程度は、食事の準備を除けば、子らの監護を主として担っていたのは夫であったと推認されると指摘。


このような経緯からすると、同居中の子らの監護についての時間的ないし量的な実績は、妻と夫とで明らかな差があるとはいえず、その時々の生活事情を踏まえて相補って監護していたのが実情と考えられるが、子らの乳児期に主として監護をしていたのが妻であることや、子らの発言の中に、妻への強い思慕を示す言葉が見られることからすると、子らは、妻に対してより強い親和性を有していることが窺われると指摘。


もっとも、相対的な親和性の強さをこのように理解したとしても、子らは夫とも良く親和していることに加え、物心ついた頃から生活し、原審判後には、二女も小学校に入学するとともに、フットベースチームにも入り、いずれについてもよく適応していると認定。

そして、夫は、妻との別居後、子らの生活や学習の細部にわたって配慮し、その心身の安定に寄与していることから、夫の監護能力と子らとの関係に問題は見受けられないことに加え、現在は、妻との宿泊付きの面会交流も安定的に実施されている状況にあると認定。

就学後の子らについて監護者を定めるに当たっては、従前からの安定した監護環境ないし生活環境を維持することによる利益を十分考慮する必要があり、乳幼児期の主たる監護者であった妻との親和性を直ちに優先すべきとまではいえないとしました。


以上の事情を考慮すれば、子らにとっては、現状の生活環境を維持した上で、妻との面会交流の充実を図ることが最もその利益に適うというべきであるから、子らの転居・転校を伴う妻への監護者指定と子らの引渡しは相当ではないと結論づけました。

 

監護権者の指定で、家庭裁判所と高等裁判所で判断が分かれた事例です。

双方共に監護状態は良好という事案で、どのような要素により判断されたのか参考になるでしょう。

 

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